一人暮らしを始めたばかりの頃、深夜にトイレの給水管から水が漏れ出したことがありました。ポタポタと床を濡らす水を見てパニックになった私は、管理会社から渡されていた冊子を思い出し、止水栓を閉めようとしました。しかし、備え付けのマイナスドライバーで回そうとしても、止水栓はびくともしません。焦れば焦るほどドライバーは溝から外れ、止水栓の頭に深い傷を作ってしまいました。結局、私は止水栓を閉めることができず、管理会社の緊急ダイヤルに電話をして業者が来るまでの一時間、タオルで水を拭き取り続けるしかありませんでした。業者が到着して最初に行ったのは、止水栓と格闘することではなく、外の共用廊下にあるパイプスペースを開け、その中の元栓を閉めることでした。業者は言いました。「止水栓が回らないのはよくあることですよ。でも、ここで無理をして配管を壊すと、下の階に迷惑をかけて大変なことになります。回らなければすぐに外の元栓に行けばいいんです」。このアドバイスは、その後の私の人生において非常に役立つ教訓となりました。賃貸物件の場合、設備のメンテナンスは大家側の責任であることが多いですが、入居者の使い方が原因で破損させた場合は、多額の修理費を請求されることがあります。回らない止水栓を無理に回して折ってしまった場合、それは「善意の行動」であっても、法的には「不適切な操作による過失」と見なされる可能性が高いのです。水漏れが起きたとき、私たちはどうしても「目の前の水を止めなければ」と視野が狭くなります。しかし、トイレの止水栓はその場しのぎのスイッチに過ぎず、大元にはもっと確実なシャットオフバルブが存在します。賃貸にお住まいの方は、入居時に必ず「外の元栓の場所」を確認しておくべきです。そして、止水栓が固くて回らない場合は、それ以上触らずに管理会社へ報告するのが正解です。業者が来た際に「止水栓が固着していて緊急時に機能しなかった」という事実を伝えれば、管理側の負担で新しいものに交換してもらえることもあります。住まいのトラブルにおいて、勇気を持って「触らない」という選択をすること。それが、集合住宅というコミュニティの中で自分と隣人の生活を守るための、最も重要なルールなのかもしれません。