最近のスマートフォンの多くは、「IP68」といった高い等級の防水・防塵性能を謳っており、多くのユーザーが「水に濡れても大丈夫」という安心感を持っています。しかし、その「防水」という言葉を過信した結果、トイレに落としてしまい、取り返しのつかない事態に陥るケースが後を絶ちません。なぜ、高い防水性能を持つはずのスマートフォンが、水没による故障を起こしてしまうのでしょうか。その理由は、メーカーが定義する「防水」と、ユーザーがイメージする「防水」との間に、大きなギャップが存在するからです。メーカーの試験で保証されているのは、あくまで「常温の真水」に対する耐性であり、トイレの水のような不純物を含んだ液体は想定されていません。トイレの水には、尿に含まれる塩分やアンモニア、洗剤の成分、さらには目に見えない雑菌などが溶け込んでおり、これらはスマートフォンの防水機能を支えるゴムパッキンや接着シールを劣化させる化学的な攻撃因子となります。また、スマートフォンの防水性能は、経年劣化によって徐々に低下していきます。日々の使用による細かな傷や、落下による衝撃、充電時の発熱と冷却の繰り返しなどによって、本体には目に見えない歪みや隙間が生じます。新品の状態では完璧だった防水シールも、時間と共に硬化し、その密閉性を失っていくのです。購入から数年が経過したスマートフォンは、もはやカタログスペック通りの防水性能を維持していないと考えた方が安全です。さらに、防水性能の試験は、静かに水に沈めるという条件下で行われるのが一般的です。トイレに落とした時のような、勢いのある水圧や、便器の硬い陶器への衝突といった衝撃は、試験の想定を超えています。その衝撃で本体のフレームがわずかに歪み、一瞬にして内部に水が浸入してしまうのです。そして、一度内部に水が浸入してしまえば、防水性能の高さは逆に仇となります。密閉性が高いがゆえに、内部に入り込んだ水分が抜けにくく、電子基板が長時間湿気にさらされ、腐食が進みやすい環境を作り出してしまうのです。「防水スマホだから大丈夫」という考えは、非常に危険な思い込みです。防水性能は、あくまで予期せぬ事故に対する保険のようなものであり、積極的に水に濡らして良いという免罪符ではありません。この認識の違いが、今日もどこかで、防水スマホの水没という悲劇を生んでいるのです。
防水スマホはなぜ水没する?過信が招く悲劇